2011年12月02日

バッハを扱ったいくつかの映画

まずは1960年西ドイツ製作の「アンナ マクダレーナ バッハの年代記 Chronik Der Anna Magdalena Bach」。



主演は、チェンバリストのグスタフ・レオンハルト。この映画は、かなり賛否両論の別れる映画である。良くも悪くも、個性的な映画であることは確かだ。まず気付くことは「カメラが動かない」ということ。基本的にカメラは固定で、わずかにズームが用いられるだけでカットが極端に少ない。そんな訳で観客はまるで、何枚かの白黒写真を次々に見せられているような錯覚すら覚える。物語は、バッハの二人目の妻、アンナ・マグダレーナが、バッハの音楽や日常生活を回想する、という形をとっている。随所に演奏の場面が散りばめられており、これが当時の古楽ファンにはたまらなかった。私自身の感想を述べると、この作品は「不可」である。なにせ、レオンハルトのバッハというのが、どうにもいただけない。何しろ彼の「細おもて」の顔が、さっぱりバッハに似ていないからだ。この映画は、ストーリーというものが無いので、おそらく当時勃興し始めた「オリジナル楽器」愛好家のための、マニアックな映画として作られたのではないか、という気がする。


バッハを描いた映画の中で、間違いなく最高なのは、東ドイツとチェコスロバキアの合作で、1980年代に作られた「Johan Sebastian Bach」だろう。






 
バッハを演じているUlrich Theinの演技が実に素晴らしい。顔がとにかくバッハに似ているし、バッハそのものになり切っている感じ。喋り方もバッハそっくり(多分あのように喋っただろうという意味だが)。もう20年前に見た映画だが、特に印象に残っているのは、ドレスデンでのルイ・マルシャンとのエピソードである。まず、マルシャンが実に「ショーアップ」の巧い「遊び人」風に描かれている。サロン演奏会で、彼が弾く「フランス風序曲」が、やたらとカッコイイ曲だったのも強く印象に残っている。その演奏を屋根裏から盗み聞きしていたバッハが、マルシャンの演奏や曲には目もくれず「あのジルバーマンの楽器は素晴らしい」というのが笑えた。マルシャンは女癖も悪く、ある日、宮廷の若い女性を口説こうとしていた。そこに「対戦相手」のバッハがチェンバロを「調律」する音が聞こえてくる。それを聞いたマルシャンは、ハッとし「あの調律法は一体何なのだ!」と言ったきり、荷物をまとめてドレスデンを去ってしまう。そのあとは、バッハが一人で「幻想曲ハ短調」を意気揚々とサロンで弾くシーン。他にもバッハの生涯の有名なエピソードが紹介されており、映画としても充分見応えがある。


時代はグッと下って2004年製作のドイツ・フランス・スイス合作「Mein name ist bach」。
(スペイン語吹き替え版)

 

私は、この映画がとにかく分からない。他と違うのは、バッハの晩年1747年に、ベルリンを訪問した一週間あまりの滞在時間のみを描いているということ。私がこの作品に感じる違和感の第一。バッハはまず「旅姿のまま」でフリードリッヒ二世のサンスーシー宮殿に呼ばれるが、そこでのバッハの大王に対する立ち居振る舞いが、あまりに「粗暴」なのだ。たとえ息子と同じ年令だとは言え、相手は「一国の王」であって息子の「雇い主」である。あまりに礼を失しているのではないか、と思えるその態度。バッハは頑固ではあっても、絶対に「無礼」な人間ではなかったはずである。この映画でバッハを演じている役者は、バッハに全然似ていないし、どっちかというと「スクルージ」役が似合いそうな「悪党ヅラ」である。もうこれだけで、この映画は見る価値がないと思う。

何より驚いたのは、サンスーシー宮廷でフォルテピアノを試奏する、歴史的にも有名なあの場面。大王が与えた例の有名なテーマで、何故か結局「即興演奏」を「やらない」という意外なストーリー展開。一番の「山場」であるはずの、このシーンを変えた意味は一体何なのだろう?史実では、バッハは大王のテーマで、即座に「三声のフーガ」を弾いたはずだ。大王が「次は六声のフーガを」と言ったときに、始めて丁重に「辞退」し、代わりに自分のテーマで即興を行なった、というのが世に伝わる史実のはずだ。ところがこの映画では、終始バッハは不機嫌で、結局何も演奏せずに、息子のエマヌエルの家へ引き上げてしまう。

他にも、ストーリーを面白くするためなのかは知らないが(私には返って内容が台無しになっているように思えるのだが)長男フリーデマンが、大王の妹にちょっかいを出したり、弟のエマヌエルと確執を起こしたりと、フィクションを次々に挿入してくる。その中で一番酷いのが、フリーデマンや大王の妹がフォルテピアノで弾くデタラメな曲だ。フリーデマンは、まるでショパンのパロディみたいなのを弾くし、大王の妹は妹で、坂本龍一の曲みたいなのを弾きまくる。これは一体何なのだ!極めつけがフリーデマンとバッハが、親子でドラムを叩いてはパンフルートを吹き、ドンチャン騒ぎをやらかすわけの分からないシーン。第一、バッハがフルートを吹けなかったであろうことは、バッハのフルート曲を見れば分かるはずだ!何だか怒り心頭に発してきたので、このへんでやめる。


最後が2003年にフランスで作られた「Il etait une fois... Johann Sebastian Bach」。



これはもうアカン!バッハがフランス語を喋るのからして白けるし、それよりも何よりも、何でバッハがこんなに「色男」なんだよ!もっとバッハの肖像画に近い醜男の役者を選べっての!ファッションもフランス式に垢抜け過ぎてるし(バッハが羽飾り付きの帽子を被ったとは思えない・・・こう書いて今Ulrich Theinを侮辱してしまったことに気が付いた、Ulrich Theinも若い頃は美男子であったことを付け加える)。ま、技術的な面では悪くない。例えば、映像の美しさは4つの中では最高なんだけどね。だが綺麗過ぎる。フランスの作曲家の映画ならそれでいいんだけどね。リュリやサント=コロンブならばね。内容は、バッハが従兄弟にあずけられていた子供の頃、夜中にせっかく写していた楽譜を取り上げられるシーンに始まって、死ぬまでを描いている。二つ目の東ドイツの作品はワイマール時代からだったので「伝記」としてはこちらが生涯を網羅している。

以上、バッハを扱った映画を見てきたが、やはり「Johan Sebastian Bach」が、ダントツで優れている。と言うより他の作品が私にはひどすぎると思えて仕方が無いのだが。

posted by takashi at 15:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・文学・音楽など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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