2011年05月20日

原発事故所感その12〜愚かな「東電詣で」と原発反対派の脆弱なレトリック

愚かな「東電詣で」

2011年3月11日以降の日本の姿を見ていて思うことが色々とある。東電による「原発犯罪」以降、インターネットテレビが、すばらしい存在感を示している。NHKニュースなどでは、差し障りの無い「編集」でしか伝えられていない「会見」の様子が、すべて通しで見られるのは、インターネットテレビのみである。一部の心あるフリージャーナリストの目覚しい活躍を見られるのも、一部の良心的な科学者や、原子力技術者の声を生で聞けるのも、インターネットテレビのみである。それらの放送局で番組を支えている、ジャーナリストの「卵」達の若さに、私は誠に頼もしさを感じる。聞けば彼らの殆どがボランティアなのだという。彼らの放送がマスメディアに対抗出来る勢力になれば、日本の未来も明るいな、とふと思ったりもする。

そんなインターネットテレビで、よく見られるもののひとつに「東電詣で」というものがある。東電による放射性物質汚染の被害者である福島県の「漁連」「農業団体」「商工会」「〇〇団体」が、東京電力に「申し入れ」だか「陳情」だか「苦情」だかで、やってくるアレである。

それらの「東電詣で」を見ていて私が思うことは、大変失礼であるが「よくもこれほど愚かな連中が今さら」というものである。

先日、福島県商工会の役員たちが、東電に「金をせびりに」行く場面を、インターネットテレビでやっていた。見ていて私は、情けなくなってきた。ある役員のセリフは「自分たちは東電の事業に、精一杯協力をしてきた。あなた達は我々に恩義があるはずだ。だから金を払って欲しい、一日も早く仮払いを出してくれ」というものであった。しかしその態度は、言いようもなく卑屈で、いわゆる「下手に出た」ものだった。しかもその役員は「自分は、多くの会員に頼まれて、ここにやって来た。彼らのガス抜きのためにも一日も早く、少額でいいから、まず金を払ってくれ」というようなことを言った。確かに「ガス抜き」という、この場には全く不適切な言葉を使っていたのを、私は間違いなく聞いた。「ガス抜き」とは、そもそもこの場合、相手側である東電が、心のなかで「舌を出しながら」用いる言葉ではないのか?この「団長」のボキャブラリーの貧困さに、私は開いた口が塞がらなかった。

他の商工会会員たちも、ただ異口同音に「金よこせ」を言うばかり。断っておくが私は、彼らが東電に「補償」を求めることが、いかんと言っているわけでは全然ない。彼の、卑屈な物言いが問題だと言っている。彼はこういうべきなのだ。

「我々は、国からの経済的見返りに目がくらみ、東電の事業に積極的に協力してきた。原発の危険性を訴える良識ある人々の忠告に、耳を貸さないどころか、それを抹殺してひたすら原発を推進してきた。その結果、このような不幸に見舞われることになってしまった。我々が原発を大きくしていったばかりに、罪の無い人々にまで、同じ不幸を与えてしまった、心から謝罪する。今はそれらの全てを、深く後悔している。私は自分はどうでも良い。私の誤った行動に従わざるを得なかった、一般の罪の無い商工会会員のために、東京電力は責任を以って補償をして欲しい。さらに、今後、私は原発をこの日本から無くすことを東電に求めたい。」と。

「一年前までは私は、原発を容認してきた。それが間違いであることが分かった。申し訳なく思っている。今後は反原発で行く。」ソフトバンク孫正義社長の言葉である。この孫社長のように、まずは自らの不明を恥じて反省する、そこから始めるのが当たり前だろう。勇気のいる行為であり、素晴らしいと私は思う。世の中には反省を「省略」して「にわか反原発」に転ずる輩の如何に多いことか。武田邦彦を見れば、そのことがよく分かるはずだ。


孫正義.jpg

untitled.bmp
        

原発反対派の脆弱なレトリック

防波堤で原発を「延命」させようとしている相手が、目の前にいたとする。その相手に向かって、例えば「防波堤を造ったところで、津波は防ぐことができるのか?」という「問いかけ」で対抗するのは意味が無い。意味が無いどころか、このような「技術的問題」に深入りするのは「逆効果」である。何故なら、これを言い始めると相手は「我が意を得たり」とばかりに「如何に丈夫な防波堤を造るか」の話に、あなたを引き込むに違いないからだ。それは同時に「津波さえ防げれば、原発は容認できる」というふうに、議論を「収束」「矮小化」するきっかけを、相手に与えることにもなるからだ。つまり、その瞬間「地震」「人的エラー」「テロ」など、その他の災害の危険要因が、いつの間にか何処かに飛んでいってしまう。さらに議論は、あらぬ方向に果てしなく逸らされていくことになる。相手は次々と、細かいことを持ち出してくるはずだ。まさに相手の思うつぼだ。何故、原発がこの世界にあってはならないのか?という核心を語らないと、そういうことになってしまうのだ。

はっきり結論を言えば、そのような相手に対して行なうべきことは、問いかけではなく、次のような「論難」である。「どんな防波堤を作ったら防げるか?などという議論をしなければならないほど危険なものであるのだから、原発は造るべきではない。」レトリックとは「相手を説得する技術」のことをいう。

我々が放射性物質、放射能、食物汚染、海洋汚染、飲料水汚染・・・これらについて語る場合には、忘れずに、ある「修飾語」を、前につけるべきである。「東電のばら撒いた〜」「東電の垂れ流した〜」「東電によって惹き起こされた〜」というふうにだ。これらの「修飾語」「接頭語」を「省略」していると、相手にとってもこちらにとっても、いつの間にか、原発事故が「天災」か何かのようになってしまい、責任の所在が曖昧になってしまうからだ。

「東電による〜」の修飾語をつけるとともに「原発事故」ではなく、出来る限り「原発犯罪」のような、的確な語を用いるのも、必要なことだ。我々の父や祖父の世代は、それを行なわずに、支配階級に「丸め込まれる」という失敗を犯している。彼らの舐めさせられた辛酸は、すべて例えば「戦争が悪い」というような言葉で片付けられた。挙句の果てには「一億総懺悔」で、みんな悪かったのだ、ということになってしまった(笑)。戦争犯罪者の天皇は生き残った。責任は国民ひとりひとりにある、とごまかされるハメとなった。ちょっと考えれば「悪い」のは戦争などという「概念」ではなく、それを惹き起こした、天皇を始めとした一部の「人間」であるということは、誰にでも分かりそうなものなのだが・・・。このような思考や、レトリックの「脆弱さ」が、戦後のドイツと日本の運命を分けたと、私は考えている。ことほど左様に日本人というものは「馬鹿(=お人好し)」なのだ。

以前もどこかに書いたと思うが、私が何より我慢がならないのは、この東電の起こした災いが「原発推進者」「原発容認者」だけを襲うものではない、ということだ。つまり、東電の撒き散らした放射能というものは、東電の役員や株主やその家族、金を掴まされた御用学者や、エサを与えられて政界で原発を推進してきた政治家や、そのような政治家に議席を与えた馬鹿な有権者や、原発推進の片棒を担いできたマスコミや、そのマスコミの言うことを、疑う知恵も持たなかった愚かな国民たちのみを、苦しめるわけでは決してない。原発に反対した政党の政治家や、そのような政治家に投票してきた人々や、原発の危険性を世に訴え続けてきた聡明な科学者や、原発反対を、勇気を持ってネットやミニコミなどで訴えてきた国民たちをも、全く「平等」に不幸のどん底に陥れるのだ!東電の撒いた放射性物質が「原発推進」「原発容認」の馬鹿共だけを殺すのならば、まだ我慢できるのだ!

あの戦争の厄災が、戦争に反対した共産主義者や、社会主義者や、宗教者や、一部の自由主義者にも向けられたことと、全く同じ「不条理」である。



20110405_160508-2.jpg
posted by takashi at 01:42 | Comment(11) | TrackBack(5) | 時事、政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
書かれていたこと納得ですよ。

Posted by ゆきぼー at 2011年05月21日 09:46
ゆきぼーさん、こんにちは。
少し反論の隙を残した内容になっていますので、そのうち馬鹿なネトウヨが書きこんでくるだろうと思います。マトモな書き込みなら少し相手をしてもいいかな、と思っております。

実際、地方の首長の中には、自らの過去を「反省」もせず、国や東電を非難する連中が多すぎます。これには本当に腹が立ちます。

原発推進音頭。ツィッターで拾いました。
http://www.youtube.com/watch?v=ETaDN13Je3Y&feature=player_embedded

Posted by たかし at 2011年05月21日 14:36
そして「原発建設を阻止することが出来なかった責任」を感じ、反対し続けてきた科学者が真っ先にリクビダートルに名乗りを上げ、一方で「お前ら反対派が原発の危険性をもっとちゃんと訴え伝えなかったから、阻止することが出来なかったから悪いのだ」と現状維持及び推進してきた人々がのたまうのですね。
Posted by nkgbk at 2011年05月21日 15:07
>一方で「お前ら反対派が原発の危険性をもっとちゃんと訴え伝えなかったから、阻止することが出来なかったから悪いのだ」と現状維持及び推進してきた人々がのたまうのですね。

ついでにこうのたまうでしょう。

「反対派の存在があったから、安全で新しい原発を作ることができず、福島のような老朽化した原発を動かし続けるしかなかったのだ」と。

これ聞いた時はあまりの荒唐無稽さに吹きだしてしまいました。
Posted by kgofboston at 2011年05月22日 09:17
原発賛成音頭視聴しました。
6月19日東京・大阪全国で原発いらないデモがおこなれる予定です。
録音してデモに参加します。
Posted by ゆきぼー at 2011年05月22日 12:42
【金李朴】

>ちょっと考えれば「悪い」のは戦争などという「概念」ではなく、それを惹き起こした、天皇を始めとした一部の「人間」であるということは、誰にでも分かりそうなものなのだが・・・。

小生も最近苦々しく感じています。
「当時は帝国主義の時代であった。だから、日本のアジア侵略も止むを得なかった」などと、したり顔で言う連中が増えています。悪いのは帝国主義という「概念」であって、「日本人」ではないと言いたいのでしょう。
吐き気がします。

ソフトバンクの孫さんは、単なる金持ちではないようです。原発に関する発言にしても、個人資産100億円の寄付にしても、器の大きさが感じられます。
金持ちに対しては常々忌避感を覚える小生です。しかしながら、孫さんに対しては、理屈抜きで尊敬の念を抱くようになりました。
Posted by 金李朴 at 2011年05月23日 00:56
すでにご存知かもしれませんが、原発利権の詳細を書いた記事です。

原発推進の起源って日本の核武装という野望から始まったんですね。
それを田中角栄が政官電の利権癒着トライアングルに進化させて自民党政権や角栄の政治的DNAを引き継ぐ小沢一郎に継承され、現在の民主党も労組ルートで電力会社に懐柔される。

技術的ポテンシャルが極めて高いはずのこの国でなぜ脱原発エネルギーが十分研究されないかが良く分りました。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/4845
Posted by oyoyo at 2011年05月23日 07:02
【たかし】

金李朴さん、
「戦争が悪い」「公害が悪い」などという表現は、責任の所在を曖昧にするだけですね。「国が悪い」「企業が悪い」でも、まだ曖昧です。「天皇が悪い」「資本家が悪い」いや、もっと言えば「裕仁が悪い」「清水正孝が悪い」と、具体的に言わなければダメなんです。そこのところをドイツ人は明確にしてきた。そしてナチスの犯罪を時効なしで追求してきた。南米に逃げて安穏に暮らしていた元ナチスを、戦後何年も経ったにもかかわらず、例えばイスラエルと協力までして逮捕してきた。これらの行動は、道徳的に日本より数段上を行っていると思います。

oyoyoさん、週刊現代の記事ですね。短くまとまった良い記事だと思います。

ところでUTSREAMにすばらしい深いインタビューがあります。まだでしたらぜひご覧ください。
110520 ドイツ緑の党連邦議員 ジルビア・コッティング・ウール氏緊急インタビュー
http://www.ustream.tv/recorded/14830968
ジルビア・コッティング・ウール氏の言葉。
「日本で何故これほど原子力政策が進められてきたのか、私は以前から全く理解出来なかった」
「私は日本の文化を敬う気持ちを持っている」
「そもそも日本人の精神や自然に対する伝統的な敬意というものと『原発』は相容れないものである」
「日本人の価値観からすると、再生可能エネルギーのほうが日本にぴったりではないか」
「原爆の被害を受けた世界で唯一の国であるのに、原子力を選択したのも解出来ないことのひとつだ」
「まるで日本は『盲目の選択』をしたように見える」
「ドイツ人は『国』に対して日本人よりも懐疑的だ」
・・・
氏は、かねがね私が言ってきた「日本とドイツの違い」について、同じことを指摘しています。日本が「過去に学ばない国」であるということを。
Posted by たかし at 2011年05月23日 12:02
レスありがとうございます。

ドイツでは「脱原発」に動いていますが、『ネトウヨパラダイス』ことmixiでは「どうせフランスやチェコの原発から電気を買うだけだろ」という批判のオンパレードです。
あくまで個人的印象ですが、原発推進に核武装をオーバーラップさせているように感じられますね・・・
Posted by oyoyo at 2011年05月24日 06:39
武田邦彦氏の欺瞞に気づかれる方がいて嬉しいです。
小芝居を演じた小佐古氏と程度の差こそあれ、同じ臭いがしますね。
Posted by hodo2shin at 2011年05月25日 00:16
hodo2shinさん、いらっしゃい。
武田邦彦の次の画像を見てください。原発推進学者の二人に対して、何の反論もしていない。異議を申し立てもしない。終始バツの悪そうな顔をして無言です(笑)。一人の時はあれほど「雄弁」なのに(笑)。一緒に出ているのが、同じ釜の飯を食っている仲間なわけだから反論「できない」わけですよ。よく見ると一箇所だけ、ゼオライトが期待できない、という意見を述べている箇所があります。差し障りの無いことだけ、それもただの「知識のひけらかし」です。奴の「本質」は明らかです。岩上安身氏は、完全にこの男の猿芝居に騙されていますね。

http://www.youtube.com/watch?v=cJj_wLG0guM&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=uhYKfsWv6J4
http://www.youtube.com/watch?v=OlTnK2PTp84&feature=related
Posted by たかし at 2011年05月25日 21:48
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。プロキシ経由は削除されます。

この記事へのトラックバック

NO.2067 障害者権利条約 批准100か国に  & お知らせ
Excerpt:  5月10日に、コロンビアが障害者権利条約を批准したことで、批准国は100カ国に到達したようです。福祉後進国・日本はまだまだ先の見通し。         ★国連の批准速報 (2011.5...
Weblog: 大脇道場
Tracked: 2011-05-20 22:55

福島原発事故を「神の仕業」と言い切る与謝野馨
Excerpt: 与謝野馨経済財政担当相は財務省の出先機関だけでなく、 原発利権の申し子でもある。 by ロベルト・ジーコ・ロッシ まずは、植草一秀氏のブログから。 三井住友FG奥正之会長のエゴ丸出..
Weblog: 政治の本質
Tracked: 2011-05-21 06:25

福島原発事故は「神の仕業」=与謝野貧乏神
Excerpt: 暗い世相ですが、これは良いニュースです(少なくとも雪どけ水にとっては)。脱原発の流れはこれで不可逆のものになったとも言えます(^_^) (引用はじめ) 福井知事、原発の再稼働認めず「県民の..
Weblog: 雪裏の梅花
Tracked: 2011-05-21 15:32

原発暴走列島。。。&、計画的避難のことなど。。。
Excerpt:  おはよう。てか、こんにちわ。  今朝の大便は、すげぇ〜固いのが出た。  便が固ければ固いほど、出したあとの爽快感って高くない?  私は、爽快感は便の固さに対して2乗に比例する、と考..
Weblog: 風の歌が聞こえる街
Tracked: 2011-05-21 21:09

福島第一について、本当のことを発表してもらいたい。。。&、内部被曝のことなど。。。
Excerpt:  おはよう。  あぁ、疲れた。どえりゃーえらいであかん。  賃金奴隷労働から解放される束の間の休日。ゆくりと休ませてもらうわ。  原発マンセーのクソ諸君は、休んでいるヒマはないぞよ。..
Weblog: 風の歌が聞こえる街
Tracked: 2011-05-21 21:10
このページのトップヘ