戦争がある限り、いつ何処で起きてもおかしくないこのような悲劇を描いたのが、映画「ひまわり」と「シェルブールの雨傘」である。どちらもストーリーは極めて単純であるが、美しいテーマ音楽も相まって感動的なヒット作となった。声高に「反戦」を訴えるような映画ではないが、それだけにしみじみと心に訴えかけるものがある。
「ひまわり」で秀逸なのが、ロシアの停車場で二人が再会するシーンの「数カット」だ。名優マルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンの見せる表情はさすがだった。どちらも完璧な演技だった。へたな日本の若手俳優だったら「台なし」になるようなシーンである。もし日本人であの場面を撮るとしたら、個人的には高倉健を使いたいと思う。となると、女優は倍賞千恵子ということになるか?やっぱり。
もうひとつ演技・演出で凄いなと思ったのは、夫を訪ね歩いて最後に見つけた一軒の家で、主人公が見知らぬ女(夫の現在の妻)と出会うシーンだ。持参した夫の写真を見せると、とたんに動揺する現在の妻。ふと戸口を見ると小さな女の子が立っている。この時のソフィア・ローレンの、一瞬で何もかも状況を悟った、といったような表情。更に招き入れられた家の中にある粗末なベッド、そしてその上にある二つの枕。それを一瞥した時に見せるソフィア・ローレンの迫真の演技・・・嫉妬・絶望・怒り・悲しみ・・・これらをすべて含んだ「女の葛藤」を表現する難しい演技を全力で演じていた。実を言うとソフィア・ローレンはさほど好きな女優ではなかったのだが、この映画での演技力はさすがだと思った。
戦争に取られた恋人を待ちきれなくて、他の男と恋に落ち結婚するという、これまた世界中で無数にあったであろう(現在この時にも起きているであろう)話を描いたのが「シェルブールの雨傘」だ。この映画を見た当時、カトリーヌ・ドヌーブの美しさには目を見張った。子供心に、これほど美しい女性がいるのか、という感じであった。
余談であるが最近中国では「口パク」に罰金が課せられる事になったと言う。その「口パク」の元祖とも言えるのがこの「シェルブールの雨傘」である。またシェルブールと言えば思い出すのが、危険な再処理核燃料を日本に向けて送り出した「軍港」であるということか。
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